1.教育はいじめにどう立ち向かうのか-秋田大学の学生・院生がいじめを徹底追究-

本プロジェクトの推進力は、秋田大学教育文化学部の学生・院生たちだ。 彼らは井門正美教授担当の教職科目「公民科内容学」と「総合演習」の受講者。1回目の講義で、井門教授から「大きな社会問題となっているいじめに、真摯に立ち向かわない教師は教師では無い!!」と言われ、 「いじめ」に関する講義を受けた後、5つの研究班に分かれて調査研究を開始した。 ここでは各グループがどんな調査研究を進めているのか、紹介しよう。

1.いじめ総合的研究調査班

私たちは、いじめ事件と裁判事例を収集し、いじめのタイプや構造を探り出しています。 現在、三つの調査を行っています。一つ目は、いじめの年代ごとの特色についてで、文部科学省のいじめの定義の変遷といじめの増加件数の関係を調べるなどして社会的背景を捉えています。 二つ目は、いじめの専門書などを読み、いじめの構造やパターンなどを探っています。 三つ目は、統計資料からいじめの分析を行っています。 最終最終的に、過去のいじめ事件は防ぐことが出来なかったのか、教育の観点から考察し、問題点と改善点を指摘します。(長谷川嘉子)

1班メンバー

伊藤 佳祐岩井健志朗上原 淳平椎谷 浩子長谷川嘉子布田さつき

2.ネットいじめ・学校裏サイト調査班

私たちは、ネットでの不適切な書き込みやいじめ等について事例を調査し、①掲示板・ブログ・プロフ型、②メール型、③SNS型、④その他という4つに類型化をしました。 従来は①のタイプのネットいじめが多かったが、最近の傾向は③や④に分類されるオンラインゲーム内や動画投稿サイトを介するいじめが急増しています。 これらのいじめをなくしていくために、学校は、ネットリテラシー、ネチケットといったモラルの教育をしていくことが大切ですが、トラブルを早期発見し事態を深刻化させないことが重要になります。 (刈田 瑛斗)

2班メンバー

伊藤 千瑛岩佐 祐作大森 果歩刈田 瑛斗鈴木 雅翔高橋 拓匤中島 俊平

3.いじめ防止条例・法関係調査班

私たちは、いじめ防止を法や条例の視点から調査・研究しています。 条例については岐阜県可児市と兵庫県小野市の事例を中心に、条例制定の契機や対象、社会との連携について分析しています。 条例制定の背景には、いじめによる問題の表出や理想とする行政プランの実現のためなど、様々な点が関係していることがわかりました。 加えて現在条例制定に向かっている自治体の取り組みや、民事や刑事の視点から条例に関連する法律についても調査を進めています。 また教育の視点から、子どもたちへのルール指導の在り方、育成すべき法的リテラシーについても提言します。(刈谷 恭祐)

3班メンバー

刈谷 恭祐齊藤 健将佐藤 琢眞高橋 美咲橘 瑚津絵舘岡 修人譲矢 有紀

4.いじめ防止プログラム調査班

私たちは、行政の対応として各都道府県教育委員会のいじめに関する手引きを集め、いじめの対処策について調査を行っています。 しかし、これらはマニュアルですから、様々ないじめを解決する決定打とは言えません。 そこで、いじめ問題の予防・解決に力を注いでいる自治体を捜し、新潟県や香川県などを中心に調査しています。 さらに、全国NPOの中から定款に「いじめ」が規定されている89団体について活動を分類して特色を捉えました。 学校は行政やNPOと密接に連携することで地域の特性に応じた「いじめ問題」の解決が可能になると考えます。(小山 竜)

4班メンバー

泉  大地菊地 達八菊池遼太郎小室早弥花小山  竜佐々木弘平武藤 貴史

5.いじめPTSD調査・模擬裁判実施班

私たちは、PTSDの概要といじめによるPTSDの事例について調査しています。 PTSDの症状は、フラッシュバックや麻痺症状などが起こること、その治療の際には周囲の人々のサポートが必要であることがわかりました。 また、事例調査では東京都清瀬市や愛知県大府市で起こったいじめ事件などを調査しました。 肉体的な苦痛を与えるいじめ、暴言などによる精神的ないじめなど、いじめは多種多様ですが、特に、教師の見えないところで行われる陰湿ないじめが多く、発見し対応することがなかなか困難だという共通点が確認できました。 模擬民事裁判は、本番にご期待下さい。(宇佐美貴章)

5班メンバー

鮎川 博晃宇佐美貴章佐賀 寛生鈴木 智彦武田 隼人田島 駿己本間 隆造

以上のような調査研究の他、講義では、大学教員のみならず、学外の専門家による講義や懇談会を行っている。 3つのトピックを紹介しておきたい。

専門家に学ぶ・専門家と語る -外部講師を授業に招く-

その1:三浦広久弁護士による「いじめと法」に関する講義

2012年12月6日(木)。秋田弁護士会の三浦広久弁護士より、「いじめと法」に関する講義をしていただいた。 公民科内容学の講義として、初めて外部講師を招聘した講義であった。三浦弁護士の講義は、いじめ問題への司法からのアプローチについてだった。少年事件の場合は、少年法に基づき少年審判の対象となる。 少年審判は非行少年の性格の矯正や環境の調整に関する保護処分を行い、少年の刑事事件について特別の措置を講ずるという基本を知った。 少年事件に対する厳罰化を求める声があがっているが、法律の趣旨を踏まえれば議論しなければならない重要なテーマであることが理解できた。 いじめ問題に取り組む私たちにとっては、改めて司法とは何か、裁判とは何かを学ぶとともに、いじめ事件と裁判に関しての専門的な知識を得ることができた。(佐賀 寛生)

その2:橋本五郎氏とのいじめ問題懇談会

2012年12月21日(金)。読売新聞東京本社特別編集委員橋本五郎氏との懇談会が教育文化学部の白神ルームで、約30名の学生が集まり開催された。 はじめに、橋本氏からご自身が特に尊敬する職業は「先生」と「看護師」という話をうかがい、教職をめざす私たちとしては大変嬉しい気持ちになった。 懇談会はいじめ問題を中心に進められた。学生自身のいじめ体験談も語られ、小学校低学年から数年間、米国に留学経験のある学生は、個人的な体験としつつも米国は1対1的ないじめ、日本は1人を大人数でいじめるような特色があるのではないかと語った。 橋本氏からも学校のいじめは深刻な状況だが、熱意を持ってその解決に当たって欲しい、と熱き思いを語っていただき、大いなる励みとなった。 この懇談会の模様は2013年1月5日(土)ABS秋田放送の番組「五郎が斬る!新春スペシャル」で放送された。(鮎川 博晃)

その3:佐藤誠氏によるネットリテラシーに関する講義

2013年1月10日(木)。㈱アキタネット取締役企画営業部マネージャー佐藤誠氏が講義を行った。 当社は秋田県教育庁と連携して秋田の子どもの情報モラル支援事業を行っており、講義は、ネットトラブルの実態とモラル指導の重要性に関する内容だった。 情報モラル支援事業とは、2009年から開始され2012年度から本格化した学校現場での「情報モラル指導」と連携・推進する事業で、ネット上の様々なサイトにおける不適切な書き込みを検索し、それらの記事・写真等の削除依頼を行うと共に、市民からの情報提供を受付けて、犯罪などのトラブルを未然に防ぐためのものである。 匿名で書き込みができるネット掲示板では、個人のフルネームの掲載、露出による誹謗中傷が行われ、秋田県でも例外ではなく、こうした問題に迅速かつ適切に対応する秋田県の施策と佐藤氏らの活動を理解することができた。 教師をめざし、いじめ問題を追究する私たちにとって、大変意義のある講義となった。(鈴木 智彦)

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