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健康教育

「健康教育」は、保健衛生や医療に関する基本的な知識と技能、健康や体力の維持・促進に関する知識や技能を身につけさせる教育です。こうした教育は、学校では、特に養護教諭や保健体育の教員の役割が重要となります。また、保健医療関係者や機関との連携促進を図ることも大切です。私どもはこのような教育にも積極的に取り組みます。

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喫煙と受動喫煙

喫煙による健康影響

井門内科医院・院長,美唄市医師会長 井門明
はじめに

タバコ煙には、約5300種類の化学物質が含まれ、そのうち約200種類が有害物質とされ、発がん性があると報告されている物質も約70種類存在している。これらの化学物質は、喫煙により速やかに肺に到達し、血液を介して全身の臓器に運ばれる。タバコ煙 に含まれる発がん性物質は、DNA の損傷等によりがんの原因となる。タバコ煙への曝露は、動脈硬化や血栓形成などを引き起こし、虚血性心疾患や脳卒中などの循環器疾患を発症させる。タバコ煙に含まれる化学物質は、肺の組織に炎症等を引き起こし、永続的な呼吸機能の低下の原因となる。

このように、喫煙が、がん、循環器疾患、呼吸器疾患、その他のさまざまな健康障害の原因になっていることが、国内外の多くの疫学的および実験的研究から示されている。

本稿では、平成28年に15年ぶりに報告された「たばこ白書」1)などの知見を中心に、能動喫煙・受動喫煙と疾患との因果関係について概説するとともに、最近健康への影響が懸念されているサードハンドスモーク(三次喫煙)と電子タバコ・加熱式タバコについても最新の知見を紹介する。

I 能動喫煙による疾患(喫煙者本人への健康影響、表1)

WHOの2017年の報告によると、能動喫煙に起因する年間死亡数は世界で600万人以上とされている2)。一方、日本での能動喫煙による年間死亡数は約12万9千人と推計されているが、特筆すべきことは、日本人の死亡に関わる危険因子の中で、喫煙は高血圧(約10万人)、運動不足(約5万2千人)、高血糖(約3万4千人)などを超える最悪の要因であることである3)

タバコの健康影響について、「たばこ白書」1)では,疫学研究などの科学的知見を系統的にレビューし、一致性、強固性、時間的前後関係、生物学的な機序、量反応関係、禁煙後のリスク減少の有無などを総合的に吟味した上で、タバコと疾患等との因果関係(その要因を変化させることで当該疾患の発生を減らすか、遅らせることができること)を以下の4段階で判定している。

  • レべル1:科学的証拠は、因果関係を推定するのに十分である

  • レべル2:科学的証拠は、因果関係を示唆しているが十分ではない

  • レべル3:科学的証拠は、因果関係の有無を推定するのに不十分である

  • レべル4:科学的証拠は、因果関係がないことを示唆している
1.がん

たばこ白書1)の中で、日本人において、能動喫煙との関連について「レベル1」と判定されたがんは、肺、口腔、咽頭、喉頭、鼻腔・副鼻腔、食道、胃、肝、膵、膀胱、および子宮頸部のがんであった。また、大腸がん、乳がん、腎盂尿管・腎細胞がん、前立腺がん死亡、および急性骨髄性白血病は、「レベル2」と判定された。さらに、がん患者における喫煙と新たに発生する二次がん罹患との因果関係は「レベル1」であり、がん診断後に禁煙した患者は、喫煙を継続した患者と比較して二次がん罹患リスクが有意に減少するとされている。

国際的な評価では、米国公衆衛生総監報告書(Surgeon Report) および国際がん研究機関(IARC )Monographにおいて、大腸がん、腎盂尿管・腎細胞がん、急性骨髄性白血病、および粘液性卵巣がんにおいても喫煙との因果関係が確定的と判定されている。

2.循環器疾患

日本人で能動喫煙との関連が「レベル1」と判定された循環器疾患は、虚血性心疾患、脳卒中、腹部大動脈瘤、および末梢動脈硬化症であった。胸部大動脈瘤は、「レベル2」と判定された。

国内の8つのコホート研究のメタアナリシスの結果では、生涯非喫煙者と比べて、1日1-20本の喫煙による虚血性心疾患の発症・死亡の相対リスクは2.15倍、1日20本を超える喫煙では3.28倍と報告されている4)。禁煙により虚血性心疾患の発症・死亡のリスクは1年以内の比較的早期に低下するが5)、1日10本以下などの減煙によってリスクを減少させたというエビデンスはない。

3.呼吸器疾患

日本人で能動喫煙との関連が「レベル1」と判定された呼吸器疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、呼吸機能低下、および結核死亡であった。気管支喘息の発症および増悪、特発性肺線維症は、「レベル2」と判定された。

4.その他

日本人で能動喫煙との関連について、2型糖尿病の発症、歯周病、また妊婦の能動喫煙では、早産、低出生体重・胎児発育遅延で、「レベル1」と判定された。妊婦の能動喫煙と生殖能力低下、子宮外妊娠、常位胎盤早期剥離、および前置胎盤の関連、また閉経後女性の喫煙と骨密度低下、喫煙と大腿骨近位部骨折、関節リウマチ、認知症の関連については、「レベル2」と判定された。

表1 タバコと疾患等との因果関係の判定結果(たばこ白書1)を一部改変)①喫煙者本人への影響
II 受動喫煙による疾患(表2)

タバコ煙に含まれる様々な有害物質は、喫煙者が肺に直接吸い込む主流煙よりも、吸っていない時にタバコの先端から立ち昇る副流煙により多く含まれ、副流煙と呼出煙を喫煙者の周りにいる人が吸い込むことにより受動喫煙が起こる。

WHOの2017年の報告2)によると、受動喫煙に起因する年間死亡数は、世界では約89万人とされている。日本人で受動喫煙との関連が「レベル1」と判定された健康影響は、肺がん、虚血性心疾患、脳卒中、呼吸器への急性影響(臭気、鼻への刺激感)、乳幼児突然死症候群である1)。日本での受動喫煙に起因する年間死亡数は、平成28年の片野田らの報告4)において、肺がん(約2500人)、虚血性心疾患(約4500人)、脳卒中(約8000人)、乳幼児突然死症候群(約70人)の4疾患で合計約1万5千人と推計されている。鼻腔・副鼻腔がん、乳がん、気管支喘息の発症・コントロール悪化、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、日本人で受動喫煙との関連が「レベル2」と判定された。妊婦の受動喫煙と子宮内胎児発育遅延、出生体重の減少、小児の受動喫煙と中耳疾患・う蝕、親の喫煙と小児の喘息発症、学童期の咳・痰・喘鳴・息切れも「レベル2」と判定された。

表2 タバコと疾患等との因果関係の判定結果(たばこ白書1)を一部改変)②受動喫煙による健康影響
③未成年者への影響
④母子への影響
III サードハンド・スモーク(三次喫煙)

喫煙をした部屋や車内にはタバコ臭が残留する。これは、壁、床、カーペット、ソファー、カーテン、衣服などにタバコ煙凝縮物が付着しており、これが再遊離し室内に漂うためである。タバコ臭は喫煙者の髪や呼気からも発散する。ガスクロマトグラフィーでこのタバコ臭を分析すると、ホルムアルデヒド、トルエン、スチレン、ベンゼンなどの有害物質が検出される。また、ニコチンが残留過程で空気中の亜硝酸と化学反応を起こし、発がん性物質であるタバコ特異的ニトロソアミンも発生する現象も知られている。このような残留タバコ成分へ曝露される状態が、サードハンド・スモークである。

サードハンド・スモークによる健康影響は、現時点で未解明の部分が多いが、動物実験において肺の炎症性サイトカインの増加や創傷治癒の遅延、多動性が観察されている6)。乗り物で隣に座った人のタバコ臭や、タバコの環境下にある場所から帰宅後の衣服や毛髪のタバコ臭で、頭痛、咳、目や鼻の刺激症状などを自覚したことのある人も少なくないのではないだろうか。長期の反復したサードハンド・スモーク曝露により、深刻な健康被害が発生することが懸念される。特に、乳児や幼児は床を手で触れた後に指しゃぶりをしたり、タバコ煙凝縮物が付着したオモチャを口に入れることがあり、大人よりも健康被害を受けやすいと考えられている。

IV 電子タバコ・加熱式タバコ

電子タバコや加熱式タバコは、従来型のタバコ製品(紙巻きタバコ)とは異なる新しいタバコ製品である。電子タバコは、グリセロールやプロピレングリコールなどのリキッドに様々な香料、添加物やニコチンを加え、エアロゾルを発生させて吸引使用する。日本では、ニコチン入りの電子タバコは薬機法で販売が規制されており、ニコチンを含まない製品のみが販売されている。電子タバコから発生するエアロゾルの成分を分析すると、製品間で大きく異なり、発がん物質であるホルムアルデヒド、アセトアルデヒドや、アクロレインなどの有害物質を含む製品もあると報告されている7)。また、バッテリーの爆発・発火事故事例の報告もある。

加熱式タバコは、加工したタバコ葉を加熱しニコチンを含むエアロゾルを発生させ、吸引する製品である。加熱式タバコの中で最も販売量が多いiQOSを製造しているフィリップモリス社は、iQOSは一般的な紙巻タバコと比べて、燃焼により発生するタール、ホルムアルデヒド、一酸化炭素、アンモニア化合物といった有害成分が少なく(約90%カット)、発がん物質の吸入も低減されていると主張している。しかしながら、その実態は不透明である。2017年にAuerらがJAMAに発表した論文8)によると、紙巻きタバコと比較し、加熱式タバコでは、多環芳香族炭化水素は1/10以下になっているものが多いものの、ニコチンや発がん物質のホルムアルデヒドはほぼ同様の含有率であり、アクロレイン、ベンズアルデヒドなどの有害物質もあまり低減されていないとの解析結果であった。

このように、加熱式タバコは紙巻きタバコと比較して有害成分の構成比が異なるところがあるにせよ、確実に一定程度以上の有害物質、発がん物質を含んでおり、この曝露量が健康被害の低減につながるとの科学的根拠はない。

紙巻きタバコによる能動喫煙、受動喫煙の健康影響が明らかになるまでに長期間を要したように、電子タバコ・加熱式タバコの健康影響に関する科学的証拠を得るまでにはかなりの期間にわたるデータと疫学研究の蓄積が必要となるであろう。特に、受動喫煙による健康影響がないことが科学的に証明されるまでは、公共の場所での電子タバコ・加熱式タバコの使用は規制するのが、公衆衛生上の原則であると考える。

おわりに

喫煙(能動喫煙、受動喫煙)が健康に多大な悪影響を与えることは、科学的に証明されており、周知の事実である。しかし、それを認識していながら、喫煙者はなぜタバコを吸い続けているのであろうか。多くの喫煙者はニコチン依存症のために止められないと考えられている。2007年の厚生労働省の調査によると、タバコを止めたくないと考えている喫煙者は26%に過ぎず、禁煙を試みたことがある喫煙者は、男性で52%、女性で57%であったと報告されている。自力での禁煙成功率は必ずしも高くなく、医療機関で禁煙治療を受けるのが禁煙への近道である。しかしながら、禁煙治療の成功率も1年後で50%以下とのデータもあり、満足すべきものではない。今後、さらに創薬が進み100%に近い禁煙成功率が得られる薬の開発が望まれる。

受動喫煙をゼロにすることは、現在の日本の社会情勢では不可能と思われる。しかし、受動喫煙症患者、がんの治療中の人、がんの再発を心配しながら生きている人々などにとっては、タバコ煙は恐怖そのものであろう。微量のタバコ煙吸入でも体調不良となることも考えられる。そのために、行動範囲が狭められ、就業にも躊躇するなど生活が大きく制限されて、不便な環境に追い込まれている人々がいるということを、我々は認識しておくべきであろう。「がん患者は、受動喫煙が嫌なら働かなければいいじゃないか」と言い放った国会議員の発言が報道されたことは、記憶に新しい。このような偏った考えをお持ちの方は多くはないと思うが、禁煙の場所で喫煙をしたり、子供の前で喫煙をする人を少なからず見かけるなど、受動喫煙に対する社会の認識の低さを思い知らされる場面は、残念ながら少なくはない。

科学的に明らかにされてきたタバコによる健康影響の詳細な内容や深刻な実態が、必ずしも万人に理解されているとは言えず、正確な知識を広く啓発することは、知識を持った者の社会的責務であると考える。また、小学生の時期からの喫煙防止教育を全ての子供達を対象に継続的に反復して行い、新たな喫煙者(犠牲者)を生み出さない対策を進めることも、日本の将来を担う次世代を守るための重要な健康施策である。

最後に、厚生労働省は罰則のある受動喫煙防止法制を整備するため、健康増進法改正案を今国会に上程する準備を進めている。面積が100m2以下の飲食店は罰則の対象外となる見込みであり、規制が不十分であるとの意見も聞かれるが、着実に規制を強化し、数年後には全ての飲食店が禁煙になることを強く期待して、本稿を終える。(2018年3月28日)

参考文献
  1. 「喫煙と健康:喫煙の健康影響に関する検討会報告書」平成28年8月喫煙の健康影響に関する検討会編. www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000135585.pdf
  2. Tobacco Fact sheet: World Health Organization. http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs339/en/ (Updated May 2017)
  3. Ikeda N, Inoue M, Iso H, et al. Adult mortality attributable to preventable risk factors for non-communicable diseases and injuries in Japan: a comparative risk assessment. PLoS Med, Jan. 9(1) : e1001160, 2012.
  4. 厚生労働科学研究費補助金 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究(研究代表者 片野田耕太).平成27年度総括・分担研究報告書 2016年
  5. Tan CE, Glantz SA, et al: Association between smoke-free legislation and hospitalizations for cardiac, cerebrovascular, and respiratory diseases : a meta-analysis. Circulation,126(18): 2177-2183, 2012.
  6. Manuela Martins-Green, Neema Adhami, et al: Cigarette smoke toxin deposited on surfaces: Implications for human health. PLoS One, Jan.9(1): e86391,2014.
  7. Uchiyama S, Senoo Y, et al: Determination of chemical compounds generated from second-generation E-cigarettes using a sorbent cartridge followed by a Two-step elution method. Anal Sci, 32(5): 549-555, 2016.
  8. Auer R, Concha-Lozano N, et al: Heat-not-burn tobacco Cigarettes: Smoke by any other name. JAMA Intern Med. 177(7):1050-1052,2017.