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ストレスマネジメント

学校におけるメンタルヘルスケアは、「メンタルヘルス不調児童生徒への対応」と「予防教育としての対応」に分かれる。この二つを同時に進めることが大切である。予防教育としてのメンタルヘルス教育を行わないと、メンタルヘルス不調児童生徒の発生を防ぐことはできない。現在、その切り口として心理的ストレスが取り上げられている。心理的ストレスとは、不安、焦燥、怒り、抑鬱といった心の変化を伴うストレスのことである。ストレッサーに直面した時、そのネガティブな情動反応を軽減する試みがコーピングである。そのコーピングは問題焦点型と情動焦点型に分けられる。問題焦点型は、問題の所在を明確にし、問題そのものを解決しようとすることであり、うまく機能すれば問題が解決されストレスはなくなる。情動焦点型は、リラックスしたりして、問題から一時逃避し、ネガティブな情動反応を軽減することである。機能すれば問題は解決されなくてもストレスは軽減される。この二つのコーピングを旨く機能させ、困難な場面の乗り切ることが重要であり、その仕組みや方法を知ることは、危機を乗り越え、また、個々の能力を伸ばすことにつながるものである。

学校におけるメンタルヘルス教育(ストレスマネジメント教育)は、「ストレスに対する自己コントロール能力を育成するための教育援助の理論と実践」である。それは、ストレス反応やストレス対処法を知る心理教育と体験ワークからなる。

ストレスマネジメント教育の進め方は、4段階で構成されている。
第1段階は、「ストレスとは何かを知る」段階である。ストレスの定義や種類、ストレスを引き起こす原因などについて、児童生徒に理解させる。この段階で重要なことは、ストレスに関する正確な知識を児童生徒に与えることである。また、何かに挑戦する時に感じる軽い興奮」のように有益なストレスが存在することを伝え、「ストレスを無くすことではなく、ストレスとの上手な付き合い方を身に付けることが大切である」という点について、児童生徒に理解させることが大切である。

第2段階は、「自分のストレス反応を知る」段階である。第1段階における理解をもとに、自分自身が抱えているストレスについて、振り返る機会をつくる。児童生徒に、「どんな時に嫌だな、辛いなと思ったり、プレッシャーを感じたりするか」と質問し、まず各人で考えさせた後、5人から10人程度のグループで話し合わせる。次に、「その時の心や体の状態」について問いかけ、自分自身の心と体の変化に気づかせていく。ストレッサーと直面したときは、非常事態であり、心と体がそれと戦っている。したがって、心と体や行動に変化が起きること、すなわちストレス反応は、正常な反応であることを理解させることを忘れてはいけない。さらに「自分のストレス解消法」を思い出させ、どのような対処法があるのか全体で確認する。この段階で重要なことは、日頃見落としがちな自分の心や体の変化に目を向けさせる、ということである。特に体の変化については意識していないことが多く、「肩がはる」や「お腹の調子が悪くなる」など、各個人特有の反応があり、児童生徒がストレスに対してどのような付き合い方をしているか、という点について知ることができる。

第3段階は、「ストレス対処法(コーピング)を習得する」段階である。児童生徒が各自で行っていたストレス対処法を尊重しながら、ストレスマネジメントの技法を伝え、実際に体験させる。具体的な技法としては、ゆっくりと呼吸しながら体の中のイライラなどの気持ちを吐き出していく「イメージ呼吸法」や、手や足などに力を入れる動作と力を抜く動作を繰り返し行うことでリラックスした状態を実感する「漸進性弛緩法」、両肩を上げて緊張させた後に脱力することで自分自身の体の感じや変化に気づいていく「肩の動作法」などがある。この段階で重要なことは、第2段階で自分の心や体の変化に目を向けさせたが、実際にストレス対処法を体験してみることで、その変化やリラックスした状態を実感させるということである。なお、児童生徒に伝えたい望ましい対処法には、以下のようなものがある。その中でも、体に働きかける方法は、児童生徒がすぐに実感することができ、非常に有効な方法である。

  1. イメージ呼吸法
  2. 漸進性弛緩法
  3. 肩のイメージ動作法
  4. 自分の好きな場所のイメージ法
  5. 自律訓練法
  6. 傾聴訓練
  7. アサーション・トレーニング
  8. ペア・リラクレーション
  9. 解決イメージ法

第4段階は、「ストレス対処法を活用する」段階である。第3段階における体験によって、リラックスした状態が体験できたとしても、その体験がその場限りのものであっては意味がない。体験したストレス対処法を実生活の中で使うことができて初めて、ストレス対処法が身に付いたと言える。この段階で重要なことは、児童生徒が各人にあったストレス対処法を見つける、ということである。

望ましいストレス対処法を身につけ、日常生活に生かすことができれば、困難な場面において、危機を脱出することができ、さらには、常に自分のベストの力を発揮することができる。

【出典】 安川禎亮:子どもの総合的な能力の育成と生きる力.北樹出版、2017.

  • 第1段階「ストレスとは何かを知る」段階
  • 第2段階「自分のストレス反応を知る」段階
  • 第3段階「ストレス対処法(コーピング)を習得する」段階
    1. イメージ呼吸法
    2. 漸進性弛緩法
    3. 肩のイメージ動作法
    4. 自分の好きな場所のイメージ法
    5. 自律訓練法
    6. 傾聴訓練
    7. アサーション・トレーニング
    8. ペア・リラクレーション
    9. 解決イメージ法
  • 第4段階「ストレス対処法を活用する」段階

(北海道教育大学附属小中学校学校カウンセラー上村雅代)